インタビュー

草加市在住の狂言師 吉田信海(よしだ しんかい)さん

「猿に始まり狐に終わる」狂言修行

野間口 狂言の演目はいくつぐらいあるんですか?

吉田 流派によって違いますが、大藏流で180あります。他の流派ではもっとあるので、全部で200以上の演目があります。

野間口 吉田さんは、そのうちいくつくらい習得しているのですか?

吉田 どうでしょう、ちゃんと数えたことはありませんが、半分くらいでしょうか。演目自体は180ですが、それぞれに登場人物が複数いて、それらを全部覚えなくてはいけないので時間がかかります。

野間口 どれくらいかけて、覚えるとかか予定とか計画みたいなものはあるんですか?

吉田 大藏流では、180の中で覚える順序があって、最初にやるのは「以呂波(いろは)」というごく短いものです。宗家に生まれた人などはだいたい4,5歳の時にこの「以呂波」で初舞台を踏むのが一般的です。

野間口 180番目、究極の演目というのは何ですか?

吉田 和泉流の言葉ですが「猿ではじまり、狐で終わる」という教えがあります。「靫猿(うつぼさる)という」猿回しと猿が登場する演目があって、その猿の役として初舞台を踏んで、それから修行を積んだ後、最後に覚えるのが「釣狐(つりぎつね)」に出て来る難易度の高い狐の役だということです。

野間口 究極の演目の「釣狐」とは、どういう筋なんですか?

吉田 狐を釣るというのは、仕掛けで狐を狩ることです。釣狐をする猟師がいて、たくさんの狐を狩ります。あまりに一族が殺されるので、一匹の古狐がお坊さんに化けてその猟師にこれ以上殺生をするなと説得にいき、猟師もこれを聞き入れます。その帰り道、お坊さんに化けた狐は、猟師の仕掛けた罠に出くわして、空腹のあまりついにエサに手を出して自分が狩られてしまうという話です。

野間口 どのあたりが難しいのですか?

吉田 狐が人間に化けているので、獣(けもの)の感じを残すために、低い中腰で前傾姿勢を保たないといけません、長い話なので、そのままの姿勢で1時間くらい演じなければいけなくて、これは体力的に結構きついことです。

狂言は能と違って基本的に面(おもて)を付けませんが、天狗や鬼、動物などの役では面をつけます。釣狐の狐役も面をつけるので、セリフも普通より大きな声で発声しなくてはいけなくて、これも難しいことです。

野間口 年をとってからでは、厳しい演目ですね。

吉田 これは、大藏家に伝わる狂言の伝書「わらんべ草」という書物に書かれていることですが、「25の朝までに覚えたことは忘れない」という教えがあります。人前で演じる、演じないにかかわらず、一通り25歳までにやっておきなさいという教えです。私は入門が20歳、今36歳ですが、先生からは、あと何年かで釣狐だねと言われています。その時はぜひ観に来てください。

野間口 分かりました。その時は、教えてください。180の演目は公演時間でいうと、どういう感じですか?

吉田 5,6分で終わるものもありますし、長いものだと1時間、様々です。登場人物も2人から20人くらいまであります。

野間口 釣狐には何人出て来るのですか?

吉田 2人です。

野間口 出ずっぱりで1時間ですか、それは余計辛いですね。

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