インタビュー

草加市在住の狂言師 吉田信海(よしだ しんかい)さん

狂言の世界のヒーロー太郎冠者

野間口 狂言では、太郎冠者(たろうかじゃ)とか次郎冠者(じろうかじゃ)とかいう名前を聞きますが、あれは落語でいう「はっつぁん」、「くまさん」みたいな、よく出て来る登場人物の名前なんですか?

吉田 太郎冠者は、狂言の中で一番多くの演目に出て来る登場人物です。冠者というのは元服が済んだ人という意味で、一応武士階級の若者ですが、身分は低くてお殿様の使用人といったところです。次郎冠者も同じような設定です。

野間口 太郎冠者が登場する代表的な狂言の筋を、ひとつ教えてもらえませんか?

吉田 学校狂言などでもよく公演する「附子(ぶす)」という狂言のあらすじを紹介しましょう。登場人物は主人と太郎冠者、次郎冠者の3人です。主人が出かけるので、太郎冠者と次郎冠者に留守番をいいつけます。その時主人は、この壷の中には「附子」という毒が入っているから、決して口にしてはいけないと念を押して家を出ます。「附子」というのは今でいうトリカブトの根ことで、昔は、狩猟の時などに使っていたそうです。

主人が出て行ったあと、ダメだといわれると人は気になるもので、太郎冠者と次郎冠者はこれは本当に毒なのかと疑った挙げ句、一口食べてみようということになり、太郎冠者がチャレンジします。

食べてみると主人が毒だといったものの正体は実は甘い砂糖だった。美味しいので、二人して味見しているうちに、夢中になってついに全部食べてしまう。我に返った二人はどうしようと途方に暮れるのですが、太郎冠者が次郎冠者に掛け軸を破れと命じます、それから、主人の大切な茶碗も割ってしまえと命じます。次郎冠者はわけも分からないままに太郎冠者に言われた通りにします。そこへ主人が帰ってきて、家の中の惨状を見て、激怒して太郎冠者に一体何があったのか問いただします。

太郎冠者は、大事な留守番の最中に眠ってしまってはいけないと思って、二人で相撲をとっていたら、掛け軸を破って大事な茶碗まで割ってしまった。こうなったら死んでお詫びをするしかないと、猛毒の「附子」を食べて死のうとしたがいくら食べても死ねずに、とうとう二人で全部食べてしまったけど、ついに死ねなかったと言い逃れるのです。

野間口 よくできた筋ですね。私は落語が好きですが、個人的には古典落語は人物描写といい、構成といい非常によくできた伝統芸能だと思うのですが、それにも通じる巧妙なストーリーですよね。主人も自分がウソをついているので、怒るに怒れない、そこを太郎冠者がうまくついているという、面白いですね。人物描写もいいですよね。主人が毒だといったのに太郎冠者が味見するということは、主人も意外に信用されてない。

吉田 この前、宗家の話を聞いていて、なるほどと思ったのですが、禅の世界では、自分を客観視して見られるようになることが大事で、これは狂言にも関係あるということです。中々、自分を客観視するのは難しいけど、狂言に登場する人物に周囲にいる人や、自分を重ね合わせて見ると、自分が客観的に見えてくる。あんなドジなことをしている。あんなに自分勝手だとか、そうやって自分を客観視して、ダメなところは改めるみたいな、そういう見方もあるということです。

野間口さんがおっしゃった落語との共通性ですが、狂言は一番古い芸能なので、狂言をベースにした落語はあると思います。歌舞伎では狂言と同じ演目があって、これを「松羽目物(まつばめもの)」と呼んでいます。こういった演目では、能楽の舞台を真似て松の絵を描いた羽目板を使っているので、こういう呼び名がつきました。

狂言の三代流派の一つである鷺流は、徳川家に保護され栄えた流派だったので、江戸時代が終わって明治時代になると保護してくれる人がいなくなり、衰退して結局は途絶えてしまいます。この時に多くの資料や文献が歌舞伎の世界に渡って、ここから松羽目物が多くなっていったと言われています。

 
 
 
▽「寝音曲」太郎冠者役の宗家。主人役は吉田さん

寝音曲(宗家)

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